朝、目が覚めて
ウトウトとしながら、隣にある温もりに当たり前のように手を伸ばす
少し硬質な、綺麗に伸びた髪
撫でようとした俺の手に、馴染みのない感触が当たった
cause a panic!
何だろう、これ。妙にフカフカしてて気持ちいいけど
毛皮みたいな感触…?ベッドにぬいぐるみなんて入れてたっけ?
っていうか何でアルの頭にぬいぐるみなんか・・・
まだ眠い眼をこじ開けて、エドワードは自分の触れているものを見た
一瞬、絶句
「アアアアアルっ、アルフォンスっ!!おい起きろ、起きろってばっ!!」
怒鳴りながらガクガクと兄に揺すぶられ、アルフォンスが不機嫌そうに目を開けた
「なぁに兄さん。ボクまだ眠いんだけど」
「寝てる場合じゃない!いいから目を覚ませ!お前が大変なんだって!」
「ボクが大変って、兄さんがじゃなくて…?」
ふああ、と欠伸をしながらぼんやりと答えるアルフォンスに、埒があかないと思ったのか
エドワードは棚から大きめな手鏡を持ってきた
「いいかアルフォンス。落ち着いてな、冷静になって鏡をよっく見るんだ」
「ボクは冷静だよ。落ち着いた方が良いのは兄さんだろ。大体鏡って…」
言いながら、自分に突き出された鏡を覗き込んだアルフォンスだったが
その鏡に写った自分の姿を認めて、瞬きを繰り返す
そして恐る恐る頭に手をやった。昨夜までは絶対に自分の頭にはなかったソレに
次いで、絶叫
「み、みみっ!なにこれ、耳だよ、しかも取れないっ!!」
「アルフォンス、落ち着け!」
「落ち着けって、やだよ兄さん、これじゃ耳が4つになっちゃう!!」
「…問題点はそこじゃない気がするぞ妹よ」
何か今ので一気に気が抜けた
「兄さ〜ん、どうしよう、これ」
涙目になりながら、こちらを見上げてくるアルフォンス
その姿を改めて見て、エドワードはドクンと心臓が鳴るのを感じた
エドワードの大きなパジャマを、上だけタッポリと着ているアルフォンス
ゆったりしたパジャマは、首筋と僅かに胸元を覗かせていて
ワンピースのようになった裾からは、白い太股が眩しく伸びていた
涙が溜まった瞳はうるうると輝いて、上目遣いが可愛らしい事この上ない
そして何故か頭に付いてる猫耳。これがまた恐いくらいに似合ってる
…朝からヤバイ。非常にヤバイ。男の子の事情が
流石にこんな緊急事態に盛ってる場合じゃないぞ俺
アルだって不安な時なんだし
込み上げてくるものを、グッと根性と理性で押し込める
「え〜と、どうするたってなぁ」
「これも人体錬成の影響なのかなぁ」
「…それしかないよな」
人体錬成で取り戻したアルフォンスの体
前例のない事だけに、どういった事が起こるのかは未知数だ
男だったアルフォンスが、女性体になってしまっただけでもパニックだったのに
ただ、性別というのは何も人体錬成した体でなくとも、揺らぐ事がある
ホルモンの関係で、男性が女性に、またその逆になってしまった例は世界にいくつもある
雷に打たれた男性が、その後女性化した例だってあるのだ
男と女の境界なんて、結構あやふやなものなのだから
だから二人共、取り戻した体が女性体だった事は、葛藤しつつも受け入れられた
でもそれと今回では、あまりに状況が違いすぎる
あまりの自体に二人して途方に暮れる。出るのは溜め息ばかりなり、だ
「誰かに相談に行ってみようか?取り合えずロイさんの所に…」
「だっ、駄目だ駄目だ!!それだけは絶対に駄目っ!!無能の所になんて、ぜーーーったいに行かせないぞ!」
ふと思いついた事を言ってみただけだったのに、兄は物凄い勢いで反対してきた
必死というか焦ってるというか。なんでここまで駄目出しするんだろう
「そこまで駄目って言う?だってセントラルで知り合いの錬金術師って他にいないじゃない」
「アイツは人体に関する事は専門外だぞ。役に立つわけがない」
「それでも、詳しそうな人を紹介してもらうとかは出来るかもしれないよ?病院も行った方が良いかもだし」
「そんなの調べればどうにかなる。とにかく駄目。絶対」
「…何でそんなに反対するかな」
やや不満げなアルフォンスを見て、兄は当然の事のように言った
「お前のその姿、見せる訳にはいかねぇ」
「ああ、成る程。そうだね、みっともないもんね。ボクも知ってる人に見られるのは恥ずかしいかも」
兄の台詞に納得しかけたアルフォンスだったが、それをエドワードは否定する
「違う、みっともないから見せたくないんじゃない。危険だから見せたくないんだ」
「・・・・・・・・・・危険?」
本気で兄の言っていることの意味が判らない
猫耳が空気感染するとでも言うのだろうか
「そういう意味の危険じゃない。今の姿をあの女ったらしの放火魔に見せたら、アルの身が危険だって言ってるんだ」
「身の危険?何だよそれ、そんな事あるわけないだろ。兄さんの考えすぎだよ!」
「そんな事あるんだよ。お前、男の思考回路甘く見てんじゃねぇぞ。
その姿軍の男共に見せてみろ。想像の中でえらい事になるの間違いなしだ」
思い掛けない兄の言葉の意味を、一呼吸置いて理解したアルフォンスの顔が真っ赤に染まる
「想像って、えらい事って何だよ!信じらんない!変なこと想像してるのは兄さんだろ、人が大変な時に!!」
兄さんの変態っ!! そう怒鳴られて、エドワードの目が細められた
その瞳に走った剣呑な光に、アルフォンスが一瞬たじろぐ
「変態…?アルが大変だからこそ、今まで押し倒したい気持ちをグッと堪えて耐えていた健気な兄ちゃんに向かって?
大体、好きな相手のこんな姿見て反応しない男なんていないだろ。極一般的なことだ。それを変態だって?」
「に、兄さん…?」
「あー、もうこの際変態で結構。だったら変態らしく、遠慮なんてせずにさっさとやりたい事やるべきだよな」
「え、ちょっとやりたい事って、兄さ…!」
言葉と共にいきなり抱き締められて唇を塞がれる
最初から激しい口付けに、アルフォンスの息もすぐに上がった
唸り声を上げても、背中を叩いてみても、抵抗はまったく無視される
やっと解放された時には、アルフォンスの目からは涙が零れていた
力を失いグッタリした体を難なく受け止めて、エドワードはその耳元で囁く
「そんな可愛い姿になったアルが悪い。…今日はもう一日離さないからな」
翌日、二人の目が覚めた時には無事元に戻っていたアルフォンスだったのだがー
それから1週間の間、口をきいてくれなくなった妹の機嫌を必死に取るエドワードの姿が見られたという
いつもキリバンを狙って下さっている蒼乃流水さん
何気に惜しい感じの番号を踏んでいらっしゃるので、纏めて一括という事で
リクエストを受け付ける事に
いきなりの申し出だったのに、お受け下さりありがとうございます
リク内容は「兄妹で、アルに猫耳が生えてしまって兄さん大慌て」でした
猫耳、こういう感じのお話は書いた事がなかったので書けるか心配でしたが
何とか書き上げる事が出来ましたー
ちょっとエロ方面に走ってしまったのは、猫耳というアイテム故ですかね…?(笑)
気にいって頂けると幸いです